医師に減薬をお願いする話術とコツ
医療安全管理者が教える減薬の進め方
――誤薬防止のための医師へのロジカルアプローチ――
こんにちは。
看護師として、そして医療安全管理者として、現場の安全に向き合ってきた私です。
前回の記事では、誤薬防止の切り札として
**「内服整理(減薬)」**を取り上げました。
効果が高いことは、誰もが分かっている。
それでも――
「先生には言いづらい」
「忙しそうで切り出せない」
「否定されたら、それ以上進めない」
そんな声が現場にあふれているのも、また事実です。
この記事では、
減薬を「お願い」ではなく「医療安全の提案」として伝えるための考え方と話し方を、
私自身の現場経験をもとに整理してお伝えします。
減薬は「お願い」ではなく「医療安全管理」
まず、大前提としてお伝えしたいことがあります。
減薬の相談は、看護師の都合ではありません。
これは、
- 誤薬・誤嚥を防ぐため
- 患者さん・利用者さんの負担を減らすため
- 医師の治療を「確実に・安全に」届けるため
の、医療安全管理上の正当な提案です。
だからこそ必要なのは、
感覚や印象ではなく、
論理と事実をそろえること。
それが、減薬の話を前に進めるための第一歩になります。
【医療安全管理の視点で行う】
内服整理・医師相談用チェックシート
医師に相談する前に、必ず「下書き」を作りましょう。
これは
❌ 説得のための資料
ではなく、
✅ 安全リスクを共有するための資料です。
① 対象患者の基本情報とリスク確認
- 内服薬総数:1回5錠以上(ポリファーマシー)
- ヒヤリハット・事故歴
飲み忘れ/紛失/飲み間違い/吐き出し 等 - 夜勤帯の状況
夜勤明け・朝食後に配薬数が集中している
② 患者・利用者さんの状態観察
- 嚥下機能低下(ムセ、飲み込みに時間がかかる)
- 認知機能低下(自己管理困難、服薬拒否)
- 症状が1か月以上安定し、漫然と続いている薬
- 本人意思による拒薬・残薬・吐き出し
③ 具体的な整理の方向性
- 配合剤への変更(2錠 → 1錠)
- 投与回数の集約(1日3回 → 1回)
- 不要薬の中止・頓用化
👉 ここが最大のポイント
「減らしたい」ではなく、
「どこがリスクで、どう整理できそうか」まで書いておくことです。
医師への伝え方テンプレート
― 大義名分は一貫して「安全」 ―
医師に話すときに最も大切なのは、
「看護師が楽をしたいから言っている」
と誤解されない構造をつくることです。
① 現状の共有
「A様の朝食後内服が8錠あり、
嚥下リスクと誤薬リスクが高まっています」
② 事実の提示(感情を入れない)
「先日、多人数の配薬が重なり、
ムセて3錠吐き出されるインシデントがありました」
③ 具体的な提案
「状態も安定していますので、
一部整理・集約をご相談できないでしょうか」
④ メリットの強調
「誤嚥防止と、確実な配薬につながると考えています」
※ 可能であれば、事前に薬剤師と相談しておくと、提案はよりスムーズになります。
医師から「NO」を言われたときの切り返し方
ここからが、本番です。
パターン①
「今のままで問題ないだろう」
「医学的に安定している点は理解しています。
ただ、現場の遂行可能性と乖離が出始めています。
誤薬で状態を崩すことが、最大のリスクだと考えています」
👉 ポイント
医学的正解は否定しない。
論点を「実行時のリスク」へ移します。
パターン②
「看護師がしっかり確認すればいい」
「最大限注意していますが、
人が一度に正確に扱える情報量には限界があります。
個人努力に頼らない安全管理が、今のスタンダードです」
👉 ポイント
責任論からシステム論へ。
パターン③
「何かあったら責任が取れるのか?」
「一気に中止ではなく、
頓用化や短期間トライアルをご提案しています。
観察は看護師側で強化し、チームで確認します」
👉 ポイント
All or Nothing を避け、小さく試す。
パターン④
「薬剤師とも相談済みで、必要だと言われた」
「薬理学的に必要な点は理解しています。
今回ご相談したいのは、
**薬の効果ではなく“運用上の安全性”**です。先生の治療を確実に患者さんへ届けるため、
現場でエラーが起きにくい形へ、
一部調整できないか、チームとして再検討できないでしょうか」
👉 ポイント
- 薬剤師を否定しない
- 専門領域の違いを尊重する
- 「治療を成功させたい味方」の立場を取る
減薬交渉の本質は「対立」ではなく「翻訳」
医師は、医学の専門家。
看護師は、生活と実行の専門家。
同じ患者さんを守っていても、
見ている世界が違うだけです。
医療安全管理者の役割は、
その二つの世界を
翻訳し、つなぐこと。
まとめ|減薬は、誤薬防止の“最終兵器”
減薬は、
医師批判ではありません。
看護師の都合でもありません。
患者さんを守る、チーム医療の提案です。
ヒヤリハットを
「書いて終わり」にするか、
「未来を変える材料」にするか。
その分かれ道に立っているのが、
医療安全の視点を持つ、あなたです。
――現場の声を、学びと仕組みに変えて。
この一歩が、確実に文化を育てていきます。
【医療安全管理者養成研修のご案内】
この記事を読みながら、
- 「これ、うちの施設でも必要だな」
- 「感覚じゃなく、根拠を持って医師と話したい」
- 「“責めない安全文化”を、自分が中心になって作りたい」
そう感じた方も、いらっしゃるかもしれません。
私がトレーナーを務める
医療安全管理者養成研修では、
- ヒヤリハットを「書かせる制度」から「育つ文化」に変える考え方
- 誤薬・転倒・事故を構造的に防ぐ視点(RCA・4M分析)
- 医師・経営層と対話するためのロジカルな伝え方
- 現場でそのまま使える事例・ツール・思考プロセス
を、机上の理論ではなく、
現場で実際に起きたケースをもとに体系的にお伝えしています。
「医療安全管理者」という肩書きは、
誰かを監視する立場ではありません。
現場の声をすくい上げ、
学びと仕組みに変え、
人と現場を守る“翻訳者”になるための役割です。
もし、
「自分の言葉で、安全を語れるようになりたい」
そう思われたなら、ぜひ一度のぞいてみてください。
