ヒヤリハットを「書かせる制度」から「育つ文化」へ

医療福祉

――小さな施設でも実現できる、医療安全を根づかせる実践知――

こんにちは。
看護師・公認心理士として、そして介護施設の施設長・医療安全管理者養成研修のトレーナーとして、全国の現場を見てきたA.mieです。

ある有料老人ホームで施設長をしていた頃、私は何度もこんな声を耳にしました。
「ヒヤリハットの用紙はあるけど、正直、誰も書いていません」
「忙しいし、言えば済む話なので……」

この“ため息”のような言葉こそが、医療安全の出発点でした。

本記事では、

  • なぜヒヤリハットが定着しないのか
  • 小規模施設でも文化として根づかせる「ステップ0」
  • 集まったヒヤリハットを“データ”として安全対策に昇華させる方法

を、私自身の現場体験と医療安全の専門知識をもとに、一本の記事として体系的にお伝えします。


なぜ、あなたの職場のヒヤリハットは「続かない」のか

大規模病院では当たり前になりつつあるヒヤリハット報告。
しかし、クリニックや中小規模の医療機関、介護施設では、制度だけが存在し、実際には形骸化しているケースが少なくありません。

その背景には、小さな職場ならではの心理的・構造的な壁があります。

①「言えば済む」という安心感の落とし穴

少人数の現場では、何かあればすぐ口頭で共有できます。
しかし、口頭の情報は記録に残らず、夜勤者や非常勤職員には伝わらない。
結果として、同じヒヤリが何度も繰り返されるのです。

②「犯人探し」になることへの恐怖

顔の見える関係だからこそ、
「◯◯さんのミスを書いたと思われたくない」
この心理的ブレーキが、報告を止めてしまいます。

③「書くだけ損」という徒労感

勇気を出して書いても、
「気をつけてください」で終わる
フィードバックがない
――これでは、次は誰も書きません。

私はこの三重の壁を壊すため、ある**“逆転の発想”**を取り入れました。


【導入の革命】まずは“ヒヤリ”を言わせない

ステップ0:提案型ヒヤリハットという練習期間

本格運用の前に、私はこう宣言しました。
「しばらく“ミス”は書かなくていい。困っていることを書いてください

つまり、ヒヤリハットを
**「事故報告」ではなく「改善提案」**として集めたのです。

最初に出てきたのは、
「女子更衣室の電灯がチカチカする」
――もちろん、すぐ交換しました。

すると不思議なことに、

  • 「3階トイレの水が流れにくい」
  • 「薬品庫の鍵が固くて手が痛い」

と、“不便”が次々に集まり始めたのです。

不便・不満は、危険の予兆

医療安全の本質は**「事故の芽を摘むこと」**。
現場の不便や違和感の裏側には、必ずリスクが潜んでいます。

たとえば、

  • 水が流れにくい → 汚染・感染リスク
  • 鍵が固い → 閉め忘れ・誤侵入の危険

ここで大切なのは、原因追及をしないこと
「早く気づいてくれてありがとう」
「事故になる前で本当によかった」

この言葉が、文化を育てます。

提案型にすることで得られる3つの効果

  • 心理的ハードルがほぼゼロ
  • 書いたら職場が良くなる成功体験
  • 管理者への信頼感が生まれる

この「ステップ0」は、
私が施設長時代に試行錯誤の末たどり着いた、
小規模施設のための実践知です。


ヒヤリハットを「安全サイクル」に変える3ステップ

提案が自然に集まるようになったら、いよいよ本番です。

ステップ①:目的の再定義 ― 心理的安全性の宣言

私は必ず、こう伝えます。

ヒヤリハットは、誰かを責めるためのものではありません。
私たち職員と、患者さん・利用者さんを守るための
**“防弾ベスト”です。

これは医療安全の世界でいう
**ノーブレイム・カルチャー(責めない文化)**の宣言です。

ステップ②:世界一ハードルが低い仕組み

  • チェックボックス中心
  • 記述は最小限
  • 匿名・付箋・ボード形式もOK

最優先は「質」より
まずは情報が出ることが、命を守ります。

ステップ③:改善を“見える形”で返す

  • 「◯◯さんの提案で配置を変更しました」
  • 「△△の声を受けて手順を簡素化しました」

掲示・朝礼・ミーティングで共有し、
**「書くと、現場が変わる」**を実感させます。


ヒヤリハットは“集計してこそ”真価を発揮する

ここからは、私自身が誤薬対策で経験した事例です。

ヒヤリハットを集計していると、

  • 朝食後薬
  • 夜勤明けスタッフ

この組み合わせにエラーが集中していました。

データの裏にあった真実

それは「気の緩み」ではありません。

  • サーカディアンリズムによる覚醒低下
  • 朝の業務集中と割り込み
  • 申し送り前の焦燥感

――つまり、人がミスを起こしやすい構造だったのです。


医療安全管理者が打つ、本質的な対策

① タスクの再分配

  • 朝食後薬を日勤・早出者へ
  • 配薬専任制で中断を防ぐ

② 医師と連携したポリファーマシー対策

誤薬の根本原因は、
「薬が多すぎる」「回数が多い」ことも少なくありません。

私はデータをもとに、医師へこう提案しました。
「事故防止のため、内服整理をご相談できませんか」

共通の目的=安全を掲げることで、
多職種連携は一気に進みます。


医療安全管理者という専門性がもたらす力

医療安全管理者養成研修で得られるのは、
単なる資格ではありません。

  • RCA・4Mによる論理的分析力
  • 人を責めず、仕組みを変える視点
  • 経営層・医師と対話できる共通言語

現在、診療報酬上も
厚生労働省
が示す通り、
医療安全体制は組織の信頼そのものです。


まとめ:あなたの「気づき」が、文化になる

ヒヤリハットは、
過去を責めるための書類ではありません。

未来を守るための、提案書です。

「うちの施設は小さいから無理」
そう感じたときこそ、思い出してください。

文化は、
ステップ0の小さな一枚から始まります。

あなたの一歩が、
一人の意識を変え、
百人の生活を守ります。

――現場の声を、学びと仕組みに変えて。
私は、これからもそのお手伝いを続けていきます。

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